傷痕~想い出に変わるまで~
…本当にキスしたわけでもあるまいし。

自分でそう思っておきながら、なぜか無性に恥ずかしくなって慌ててコーヒーを飲み込んだ。

「あちっ!」

喉元を通っていく熱い固まりにのたうち回りそうになる。

慌てて飲むにはまだ熱すぎたらしい。

ああもう…なにやってんだか。

「何やってんだ?」

声の方に視線を向けると、喉元を押さえて苦悶の表情を浮かべる私を門倉が不思議そうに眺めていた。

「いたの…?」

「いたけど。」

ドアが開いたの気付かなかった…。

「どうした?」

「コーヒーが熱かっただけ。」

「何やってんだよ、大丈夫か?」

「うん…まあ、なんとか。」

さっきおかしなこと考えていたせいで、門倉の顔を見るのがなんとなく気恥ずかしい。

それをカップで隠すようにしてコーヒーをすすった。

「篠宮がコーヒー飲み終わるまで俺もタバコでも吸って待つか。」

門倉は当たり前のように私の隣に座る。

椅子なんか一杯あるんだから隣に座らなくてもいいのに。



それからいつもの居酒屋で食事をしながらビールを飲んで、昨日光に会った時のことを話した。

さっきからずっと門倉の眉間にシワが寄っている。

「それで篠宮はどう思ってるんだ?」

「私に会いたかったのはあの時のことを謝りたかったからなんだとばかり思ってたのに、まさかあんなこと言われるとは思わなかった。5年も前のことだし。」

「そういうことじゃなくて…篠宮はあいつをどう思ってるのかって聞いてんの。」


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