傷痕~想い出に変わるまで~
そうか…門倉には好きな人がいるんだ。

だから結婚指輪を処分して禊を終わらせたり、私にかまってる暇なんてないから私にも早く禊を終わらせろって言ったのかも。

私は光と別れてからちっとも前に進めていないのに、門倉は確実に前に向かって進んでる。

なんだか取り残された気分だ。

私もなんとか前に進まなきゃというほんの少しの焦りと、不可思議なモヤッとしたものが心に芽生えた。

ジョッキに残っていたビールを一気に飲み干して突き出すと、門倉は少し驚いた顔をした。

「なんか悔しい…。」

「何が?」

「門倉より早く次の恋を見つけたかったのに先越されちゃうし、恋の仕方なんて忘れちゃったしな…。」

「はぁ?」

門倉は怪訝な顔をして首をかしげながら店員を呼び止め、ビールのおかわりを2つ注文した。

「門倉は結婚する前、奥さん以外の人と付き合ってた?」

「まぁ…それなりに?」

「離婚した後も?」

「付き合ってた…とまではいかないけど、それらしい相手がいたこともある。」

それらしい相手ってなんだ?

付き合ってたような付き合ってなかったような、曖昧な関係の相手のことをいうのか?

“いたこともある”ってことは、今はその人とはもう“それらしい”関係ではないのかな。

なんにせよ、門倉が私よりずっと恋愛経験が豊富なことには違いない。

「いきなり好きとか付き合おうとか言われてもさぁ…どうしていいのかわからないんだよね。私の恋愛の基準は光だから。」


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