傷痕~想い出に変わるまで~
ビールを飲んでいた門倉がジョッキを置いて顔を上げた。

「恋愛の基準?」

「初めて付き合った人が光で、そのまま結婚して離婚してその後は仕事一筋で、光としか付き合ったことないから、他の人だとどうするとかわからない。」

「恋愛に基準なんか必要か?過去に誰と付き合おうが、大事なのは今の自分の気持ちだと俺は思うぞ。」

今の自分の気持ちがわかっていたら最初から悩んだりしない。

大人になれば恋愛ももっとうまくできるもんだと思ってたのに、大人になるほど恋愛以外にも大事なものが増えて、好きとか嫌いで割り切れるほど簡単じゃなくなって。

このままじゃ私、一生一人のままなんじゃないか?

今はそれで良くても将来のことを考えると“今の自分の気持ち”だけを考えているわけにもいかなさそうだ。

「光とのこと、考えてみようかな…。」

「えっ。」

「昔と同じってわけにはいかないけど…あんなに好きだって言ってくれてるし…。」

門倉は険しい顔をしてタバコに火をつけた。

一度失敗している相手となんてやめとけとか思ってるのかな。

「篠宮は好きだって言ってくれるやつなら誰でもいいのか?」

予想外の門倉の言葉に少し驚いた。

一度別れた相手とは言え、私を好きだと言ってくれている人と付き合うのはそんなに悪いこと?

「そういうわけじゃないけど…今の光を見もしないで断るのもどうかと思うし、離婚した原因の半分は私にもあるんだし…。もう一度やり直せたらって思ったのは私も同じだからね。」


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