傷痕~想い出に変わるまで~
「俺がやめとけって言っても?」

「え?」

「人間の本質なんてそうそう変わるわけじゃない。篠宮は仕事のことになると他のことは後回しにするだろ?あいつも最初のうちは我慢するだろうけどな、そんなことが続いてまともに相手してもらえなくなると、また同じことくりかえすんじゃないか?」

それは私も思わなかったわけじゃないけれど、門倉に言われるとなぜか無性に腹が立った。

「そんなのわからないよ。でも私だって昔のことは後悔してるし、光もすごく後悔してたって。それにもう二度と私を悲しませるようなことはしないって言ってくれたから。」

どういうわけか私は、門倉に対して自分と光を擁護するようなことを言った。

迷っていたから門倉に相談したはずなのに、これでは私が光ともう一度付き合うことを決めているみたいだ。

門倉は舌打ちをして伝票を手に立ち上がった。

「だったら好きにしろよ。俺に相談なんかしなくたって、篠宮の中でもう答出てんじゃん。禊はこれで終わりだな。」

「ちょっと門倉…。」

門倉はひどく苛立たしげな様子で私に背を向けた。

私も荷物を手に立ち上がり、店を出ようとする門倉の後を追った。

「門倉、ちょっと待ってよ。」

店を出てさっさと歩いて行く門倉の腕を掴んで引き留めると、門倉はゆっくり振り返った。

その顔があまりに冷たくて一瞬たじろいでしまう。

「俺が何言っても篠宮はあいつをかばうだろ?そんなにあいつが好きなら、同じ失敗をくりかえさないようにお互いの顔色窺いながらうまくやれば?じゃあな。」





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