傷痕~想い出に変わるまで~
カフェに入って私はパンケーキを、光はミックスサンドを、二人ともセットの飲み物はホットコーヒーを注文した。

パンケーキなんて久しぶりだ。

光とカフェに入るのも何年ぶりだろう。

最近、光と一緒に何かをするたびに何年ぶりだろうと思ってしまう。

「瑞希はこの近くに住んでるの?」

「駅から徒歩5分。」

「便利でいいなあ。」

光が今の私の住んでいる場所を知らないように、私も光が今どこに住んでいるのか知らない。

どこの会社でなんの仕事をしているのかだけは偶然知ったけど、もう会わないと思っていたから今現在のことは何も聞かなかった。

「瑞希は俺のことなんにも聞いてくれないんだね。」

「聞いて欲しいの?」

「今の俺のこと知って欲しいし、俺も今の瑞希のこともっと知りたいよ。ダメかな?」

まだ付き合うとハッキリ決めたわけじゃないし、今の段階でそんなに深入りしていいものか、あまり距離を詰めすぎるのは良くないような気もする。

「ダメってわけじゃないけど…。」

その後に続く言葉が見つからず口ごもると、光は少し困った顔で笑みを浮かべた。

「ごめん、困らせるつもりはなかったんだ。ただ素直にそう思っただけで、無理強いする気もない。」

そんな切ない顔されたら少しでも聞かなきゃいけないような気になってしまう。

「……じゃあ、最寄り駅だけ聞いとこうかな。」

光は一瞬キョトンとした後、おかしそうに笑った。

「無理して合わせなくていいって。」

無理…したのかな?

そりゃ、めちゃくちゃ知りたいとも思ってないけど…。

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