傷痕~想い出に変わるまで~
「いつか瑞希がホントに俺のこと知りたいって思ったら家の場所教えるから。」

「それって…私が付き合う気になったら俺んちにおいで、ってこと?」

「うん。そうなると嬉しい。」

光は光なりに私の気持ちを汲んでくれているのかも。

じゃあ、私は…?

今の光に少しでも歩み寄る気持ちはある?

だいたいどこを見て付き合うかどうかを判断すればいいのかわからないのに、何も知ろうとしないで光のことがわかるわけがない。

そうだ、私は何度か会っている時の様子を見ただけで付き合うべきかどうかを判断できるほど恋愛上級者じゃないんだから、一歩踏み込まないと何も始まらないんだ。

とりあえず…どうすればいい?

覚悟を決めて“付き合う”って言ってみようか。

「光…あのね…。」

思いきって話を切り出そうとすると、店員が私の注文したパンケーキを運んできた。

「お待たせしました、パンケーキお持ちしました。」

「あ…ありがとう。」

店員が私の前にパンケーキを置いてテーブルから離れると、光は小さく笑った。

「ここのお店はパンケーキにならないんだね。」

「え?」

「ほら、居酒屋では若い女の子の店員が“こちら豚の角煮になりまーす”って…。」

ああ、光と居酒屋で向かい合っていた時のことか。

女子大生風の店員が、オーダーしたものを運んでくるたびになんでもかんでも“こちら~になりまーす!”って勘違いな敬語を使っていたっけ。

< 121 / 244 >

この作品をシェア

pagetop