傷痕~想い出に変わるまで~
「ああ…あれね。これから角煮になるなら今はなんなの?豚なの?って気になって気になって…。」

改めて考えてみると本当におかしな日本語だと、思わず笑いが込み上げた。

「やっと笑ってくれた。」

「え?」

光は私の顔を嬉しそうに見つめている。

「ずっと身構えて表情が固かったから。瑞希の笑った顔、久しぶりに見たよ。離婚する前もずっと笑った顔なんて見られなかったし。」

「そう…だっけ…?」

「…って言っても、瑞希が笑えないような状況を作ったのは俺なんだけど…。」

離婚する前はまともに顔を合わせなかったし、光とどう接すればいいのかずっと悩んでいた。

光の前で笑う余裕なんてなかったと思う。

ちょっとしたことでお互いにつらかった時のことを思い出してしまうなんて。

よく考えたら、こんな状態で付き合ってうまくいくとは思えない。

「あ…また瑞希を困らせるようなこと言っちゃったかな。ごめん。」

「…ううん。」

「パンケーキ、冷めないうちに食べて。」

「うん…。」

パンケーキにホイップマーガリンを塗ってメイプルシロップをかけた。

その様子を見ていた光が首をかしげた。

「シロップ、そんな少しでいいの?」

「え?」

「昔はもっとたくさんかけてたよね。飲み物もいつもミルクティーだったし。もしかして甘いの苦手になった?」

驚いたな。

二人でカフェやファミレスに行っていたのなんて結婚する前の大学生の頃なのに、10年以上経ってもまだそんなこと覚えてるんだ。

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