傷痕~想い出に変わるまで~
ちょうど良かった。

少しの間は余計な話をしなくて済む。

私がパンケーキを口に運ぶと光もサンドイッチを食べ始めた。

今の私にはシロップのかかったパンケーキはやっぱり甘すぎたみたいだ。



「まだ時間も早いしどこか行かない?」

コーヒーをもう少しで飲み終わる頃、光がそう言った。

どうしようかと思ったけれど、私は首を横に振った。

「今日はやめとく。家のこと何もしてないし…明日の仕事の準備もしときたいから。」

本当は家のことなんてどうにでもなるし、明日の仕事の準備も特別何かをしなくちゃいけないわけでもない。

ただ今日はもうこれ以上光と一緒にいるのがちょっとしんどいだけだ。

あの頃の真剣な想いが結婚という形に結び付いたと私は思っていたのに、光は私との結婚に対して“焦ってもいいことなんてなかった”と言った。

“若気の至り”と言われればそれまでの短い結婚生活だったし、決してうまくはいかなかった。

私は光と向き合えなかったことや仕事に打ち込みすぎて光を大事にできなかったことは後悔しても、光と結婚したこと自体を後悔したことはない。

光が私との結婚を後悔しているのかも知れないと思うと、胸がギシギシとイヤな音をたてた。

「もう少し瑞希と一緒にいたかったんだけど…あんまり無理は言えないな。」

「…ごめん。」

「いや…急に誘ったのに会えただけでも嬉しかった。来てくれてありがとう。また誘うから、今度はどこかに行こう。」

「うん…じゃあ、またね。」



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