傷痕~想い出に変わるまで~
駅の前で光と別れた。

一人になるとホッとして、ようやく自然に息を吸うことができた。

自宅に戻り一息つこうとタバコに火をつけて初めて、この間も今日も私は光の前でタバコを吸っていなかったと気付いた。

居酒屋で会った時はタバコを吸っているところを見られたし、昔の私とは違うことを知って欲しくて、あえて目の前でタバコを吸った。

隠しているつもりはないのに光の前でタバコを吸わなかったということは、私は光の目を気にしているのかな。

光も私に無理をさせまいとやたらに気を遣っている。

門倉が言った通りだ。

私も光も、相手の顔色ばかり気にしている。


光と一緒にいると何もかもがぎこちなく、言葉の端々や会話の隙間に拭い去れない過去が貼り付いていて、それを見つけるたびに胸が軋んだ。

何度か会って慣れてくれば今みたいに気まずくなることはなくなるのかな?

せめて普通に会話ができなければ、この先ずっとどころか、1日も一緒にはいられない。

光のことが好きかと聞かれたら正直まだなんとも言えないけれど、光が本気で私を好きで一緒にいたいと思ってくれているのなら、できれば私もそれに応えたい。

やり直すことはできなくても、また新しい関係を築くことはできるんじゃないかと思うから。

次に会う時はもう少し自然に笑って話せるといいなと思う。

今はまだ過去を振り返るたびに胸が痛む。

それを光と一緒にひとつひとつ乗り越えられたら、新しい想い出はつらかった過去の傷痕を消してくれるだろうか。

きっと私たちがすべてを受け入れ心から笑えるようになるまでは、まだまだ時間が必要だ。

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