傷痕~想い出に変わるまで~
“瑞希はウサギ好きだったよね。ウサギ飼いたいって昔言ってたもんな”
ウサギを飼いたいと言っていたのは大学を卒業する少し前、婚約中でまだ実家で暮らしていた頃のことだ。
あの頃は動物を飼うことがどれほど大変かをわかっていなかったから、ただ可愛いからというだけの理由でウサギを飼いたいと何気なく言った。
結婚して一緒に暮らせるようになったら飼いたいねと二人で話したことを思い出した。
だけど結婚して仕事をしながら家事をするようになるとそんな余裕はなかったし、家を留守にする時間が長いので世話をしてやることもできないと思い断念した。
あの時本当にウサギを飼っていたら、仕事で忙しくても二人で可愛がって世話をして、少しは私たちの結婚生活も長く続けられただろうか。
もしかしたら私たちが不仲になって寂しさで死なせてしまったかもと思うと、やっぱり飼わなくて正解だったのかなと思ったりもする。
動物たちに餌をやったり戯れたりしていると二人ともいつもよりは自然に笑って過ごせた。
けれどどこに行っても何をしても昔とは違うのだと改めて認識した。
光が私の手を取ろうとして何度かためらっていたことに気付いたけれど、私は気付かないふりをした。
帰り際も昔みたいにキスしたり抱きしめたりしない。
光は私を好きだと言ってくれるけれど、私はまだ光のことが好きだと自信を持って言えない。
昨日もまた返事ができないまま“じゃあまたね”と言って、二人で過ごす3度目の休日は終わった。