傷痕~想い出に変わるまで~
廊下の角を曲がると自販機の前で話している男女の姿が見えた。

飲み物の入ったカップを持って甘ったるい声で話しているのは、若い男性社員に人気の営業部の事務をしている女子社員だ。

小悪魔を装っているのか、自分を最大限に可愛く見せるメイクが得意な今時のオシャレ女子って感じ。

彼女はお得意の上目遣いと甘えた口調で、自販機の飲み物を補充しに来た光に話し掛けている。

「勝山さん、自販機に新しい飲み物入れてもらえますぅ?」

「何かご希望があるんですか?」

「キャラメルマキアートとかありますかぁ?」

「ああ、ありますよ。次の補充の時に入れておきますね。他にも何か要望があったらお聞きしますけど。」

「じゃあ、勝山さんの携帯の番号教えて。」

仕事中に若い女子にナンパされてるよ…。

「えっ…それはちょっと…。」

若い子の押しの強さに引いてるな。

「勝山さんってぇ、独身ですよねぇ?彼女いるんですかぁ?」

独身だけどバツイチだよ、その人。

「えーっと…いや…。」

彼女はいないけどバツイチだってハッキリ言えばいいのに。

「勝山さんってぇ、すっごい私のタイプなんですぅ。今度デートしてくださいよぉ。」

いちいち語尾を伸ばすな、語尾を。

鼻にかかった声と甘ったるい話し方が癇に障るわ!

「いや…それもちょっと…。」

取引先の社員だから強く断れないのか、光は困った顔で作り笑いを浮かべている。

断るならハッキリ断れ!

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