傷痕~想い出に変わるまで~
「だから落ち着けって。」

門倉が私を引き寄せて長い腕の中に閉じ込めた。

突然抱きしめられ門倉の体温に包まれて、心臓がさっきとは違う音をたてた。

「そのうち動く。俺がいるから心配すんな。」

私を落ち着かせるためにそうしたんだろうけれど、私の心臓は余計に落ち着かない。

それなのに門倉がそばにいてくれる安心感は大きい。

一人だったらどうしていいかわからず、もっとひどく取り乱していただろう。

「相変わらずだな、篠宮は。」

「相変わらずって何よ…。」

「仕事に関しては抜かりがないのに、普段はどっか抜けてる。」

「ドジだって言いたいの…?」

バカにされたみたいで悔しくて門倉の胸を押し返した。

それなのに門倉は私の力なんかものともせず笑って、更に強く私を抱きしめて頭を撫でた。

「俺は篠宮のそういう完璧じゃないところが人間らしくていいと思うぞ。」

「何それ…。」

ずっと私の存在なんてなかったような態度を取っていたくせに、どうしてエレベーターに乗ってきたんだろう?

エレベーターに乗ろうとする私を止めるなら、手で扉が閉まらないように押さえるとか、私を引っ張り出すとか他にも方法はあったはずなのに。

どうして門倉は私を抱きしめたりするんだろう?

「門倉だって人のこと言えないよ…。自分まで乗っちゃったら道連れになっちゃうのに。止めるなら他に方法はあったでしょ?」

「…そんなことわかってるよ。」

「……え?わかってるならなんで…?」

門倉の言いたいことの意味がさっぱりわからない。

< 135 / 244 >

この作品をシェア

pagetop