傷痕~想い出に変わるまで~
「やっぱバカだな、篠宮。」

門倉は今どんな顔をしているんだろう?

いつもみたいにちょっと呆れた顔をして笑っているのかな?

「バカって言われる理由もわからないんだけど…。って言うか、もう大丈夫だからそろそろ離してくれる?」

「こうしてるとあったけーからこのままでいさせろ。」

確かに門倉にこうされてるのはあったかいけど…。

体の大きさや温かさ、腕の長さや力強さ、いつものタバコの匂い、少し押し殺した息遣い…。

視覚以外の感覚が門倉を敏感に感じ取って、異性であることを再認識してしまう。

ただでさえ暗くて門倉の表情が見えないのに、これ以上こんな状態が続いたら心臓がもたないよ!

「人を使い捨てカイロみたいに…。」

「おまえを使い捨てたりしねぇよ、俺はな。」

俺はな、って…何が言いたいの?

まるで私が誰かに使い捨てられたことがあるみたいじゃないか。

もしかして門倉は私のこと、光に使い捨てられた惨めな女だとか思ってるわけ?

「篠宮…結局あれからさ…あいつと付き合ってんの?」

門倉は少し低い声でためらいがちに尋ねた。

居酒屋で禊をした後からずっと一言も会話していなかったから、門倉が何も知らないのは当たり前だ。

「まだちゃんと返事してないけど…時々会って食事したりとか……あっ!!」

そうだった、この後光と会う約束をしていたんだ!

仕事が終わったら連絡してって言われてたのにまだ連絡していないし、このまま2時間くらい身動きが取れないのなら知らせておかないと心配するかも。


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