傷痕~想い出に変わるまで~
門倉の指先が私の頬を撫でた。

「門倉…?」

「あいつに言えないようなことしようか。」

「えっ?!」

光に言えないようなことって…つまりそれは…。

こんな門倉、私は知らない。

門倉が何を考えているのか、暗闇のせいで表情もまったくわからなくて、知らない男と密室に閉じ込められているような錯覚に陥る。

二つの大きな手が私の頬を包み込んだ。

「こんな時に冗談やめてよ…。」

「本気ならしていいか?」

ゆっくりと顔が近付く気配がした。

「バカッ、そういう問題じゃない…!」

私の額に門倉の額がそっと触れたのがわかった。

「ホントにバカだな、俺は。おまえが禊終わるの待とうなんてカッコつけないで、もっと早くこうしときゃ良かった。おまえのこと一番わかってやれるのは俺だと思うし、俺のこと一番わかってくれんのもおまえだって思ってたけど…おまえ全然わかってねぇもんな。」

「門倉…?」

「いい加減気付けよ、バカ…。」

額が離れて、頬に柔らかいものが微かに触れた。

えっ…今の、もしかして…。

場所を確認するように触れた門倉の親指が私の唇をゆっくりなぞる。

「ねぇ、ちょっと待ってよ…。」

「もうじゅうぶん待った。それなのにおまえはあいつを忘れようとしない。だったらもう待つのはやめる。」

グイッと頭を引き寄せられ、もう逃れられないと観念してギュッと目を閉じた。

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