傷痕~想い出に変わるまで~
閉じたまぶたの向こう側に微かに光を感じた時、門倉の手が私の体からゆっくり離れた。

エレベーターは微かに軋んだ音をたてた後、静かに動き出した。

おそるおそる目を開けると、門倉は私に背を向けていた。

「…時間切れだな。」

門倉は静かにそう呟いて、私の頭をポンポンと軽く叩いた。

エレベーターが1階に到着して扉が開いた。

門倉は何も言わずにさっさと降りて歩いていく。

私は門倉を追い掛けることもできず、黙ってその後ろ姿を見送った。

確かエレベーターは2時間くらい動かないって金城くんが言っていたけど、私たちはそんなに長い間あの密室に二人きりで閉じ込められていただろうか?

エレベーター内の貼り紙が目に留まり、今更ながらその文面に目を通した。

動かないのは2時間ではなく20分の間違いだった。

扉が閉まりかけ、慌てて開くボタンを押した。

「ん…あれ?」

緊急時呼び出しのボタンは私が思っていたのとは全然違う場所にあって、暗闇の中で必死に押し続けていたのは最上階の階数ボタンだったらしい。

道理でいくら押しても応答がないはずだ。

あんなに取り乱してカッコ悪い。

もしかしたら門倉はそれに気付いていたのかも知れない。

ため息をついてエレベーターを降りた。

まだ鼓動が落ち着かない。

門倉に抱きしめられた温もりが少しずつ失われていく感覚に、胸がしめつけられるような痛みを覚えた。


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