傷痕~想い出に変わるまで~
二人で酒を飲みには行くけれど、私と門倉の間に男女の関係は一切ない。

仲の良い同期で、新人時代に同じ課で仕事した戦友で、離婚の苦さを味わったバツイチ仲間だ。

二人して身も蓋もないことを言い合って、今ならきっと少しくらいはうまくやれるのにと言いながらそれぞれの帰路に就く。

私と門倉の中では、結婚も離婚も若気の至りなんだと思う。

相手と少しでも長く一緒にいたいという浅はかな理由で結婚したにも関わらず、結婚しても一緒にいられない孤独を感じさせて離婚に至った。

一緒にいる時しか信じられないような脆い関係だったから早く結婚したかったのかも知れない。




2時間ほど残業をして今日の仕事を終えた。

時刻は既に7時半をまわっている。

7時前に門倉から【仕事終わった、喫煙室で待ってる】とメールがあった。

急いで帰り支度を済ませて喫煙室に向かうと、門倉は一人でコーヒーを飲みながらタバコを吸っていた。

「お待たせ。」

「おー、お疲れ。篠宮も一服する?」

「いや、店に行ってからでいい。」

門倉は冷めきったコーヒーを飲み干して立ち上がり、ゴミ箱にカップを捨てた。

短くなったタバコを灰皿に投げ入れると、水の中でジュッと音をたてて火が消えた。

この音を聞くといつもなんとなく寂しい気持ちになる。

線香花火が燃え尽きたみたいな、そんな感じ。


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