傷痕~想い出に変わるまで~
とてもじゃないけど、今こんな状態で光の顔をまともに見られる自信がない。


【急な仕事があって終わるのが遅くなりました。明日も早いし今日はこのまま帰ります。ごめんなさい】


メールを送信すると、すぐに光からの返信があった。


【わかった。会えるの楽しみにしてたから残念だな】


門倉と二人きりでエレベーターに閉じ込められて、抱きしめられて頬にキスされたとか、光には言えない。


“おまえのこと一番わかってやれるのは俺だと思うし、俺のこと一番わかってくれんのもおまえだって思ってたけど…おまえ全然わかってねぇもんな”


“いい加減気付けよ、バカ…”


“もうじゅうぶん待った。それなのにおまえはあいつを忘れようとしない。だったらもう待つのはやめる”


門倉の言葉が何度も頭の中をぐるぐる駆け巡る。

暗闇の中で門倉が言ったいくつもの言葉を反芻しながら帰路に就いた。

自宅に戻り玄関の鍵を開けてドアノブに手をかけた時、門倉が一番強い口調で言った言葉が脳裏をよぎった。


“別の男にあいつよりずっとおまえのことが好きだって言われたら、どっち選ぶんだ?”


別の男って…門倉のこと?!

手に持っていた鍵を思わず落としてしまい、マンションの通路にガチャンと大きな音が響いた。

慌てて鍵を拾い上げてドアを開け、急いで玄関に飛び込んだ。

「まさか…嘘でしょ…?」


“あいつに言えないようなことしようか”


低く艶っぽい声で囁いた意味深な言葉を思い出して思わず赤面してしまう。

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