傷痕~想い出に変わるまで~
今までそんなことは一言も言わなかったし、それらしいそぶりは見せなかったのに、急に男になられても…。

もしエレベーターが20分じゃなく本当に2時間くらい止まっていたら…私はどうなっていたんだろう?

門倉は暗闇の中で私をどうするつもりだったんだろう?

女の私がどんなに抵抗したところで、本気になった男の力には到底敵わない。

抵抗する私を押さえつけて無理やりにでもどうにかしようなんてことは…。

いや、門倉に限ってそれはないと思う。

だってあの時、私の頬に触れた門倉の手はとても優しかったし、結局ほんの微かに頬に唇が触れただけで、それ以上のことは何もしなかった。

門倉が本気になればどうにでもできたはずなのに、私は必死で抵抗したりはしなかった。

もしあのまま門倉にキスされていたとしても、私はきっとイヤじゃなかったんだと思う。

それってつまり…。

「わあぁぁぁーっ!!」

頭がそれ以上想像することを拒んで真っ白になり、私は奇声を発して頭から布団に潜り込んだ。

いやいやいや…まさかそんなはずは…。

門倉は仲のいい同期で、隣の課の課長で、同じバツイチ同士の禊仲間だったはずなのに。

吊り橋効果みたいなもので、二人きりで真っ暗なエレベーターに閉じ込められてお互い勘違いしてるだけ?

恋愛経験の浅い私の許容量を越えてしまったのか、頭の中がパニックを起こした。

ダメだ、もう考えるのやめて寝てしまおう。

ぐっすり眠って明日になれば少しは冷静になっているはずだ。




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