傷痕~想い出に変わるまで~
今ので眠気もすっかり覚めてしまった。

門倉の唇の感触がまだ残る唇に指先でそっと触れてみる。

他に誰もいないからって…。

ここ会社なのに誰かに見られたらどうすんの…。


“…好きだ”


“あいつなんかやめて俺にしろよ。大事にするし絶対後悔させないから”


“俺は本気だからな”


門倉の声が何度も耳の奥で響く。

どうしよう…。

びっくりしたけど…イヤじゃなかった…ってことは……私……?

門倉のことを好きとか恋愛の対象と思ったことなんかなかったのに、なんでこんな…。

「おはようございます!」

「わぁっ!」

急に声を掛けられて、驚きのあまり椅子からずり落ちそうになった。

「どうかしました?」

田村くんが不思議そうな顔で私を見ている。

「お、お、おはよう…。」

びっくりした……。

ドアが開いたの全然気付かなかった…。

ぬるくなったコーヒーを飲み干して席を立った。

慌てて喫煙室を出ようとして椅子の脚につまずき転びそうになる。

「篠宮課長、大丈夫ですか?」

「う、うん…大丈夫…。」

眠気は覚めたけど朝からこんな状態じゃ仕事にならないよ!

これから仕事なんだからしっかりしなきゃ。

とりあえずさっきのことは一旦忘れようと思うと同時に、また門倉の唇の感触を思い出して赤面してしまう。

「ホントに大丈夫ですか?」

「大丈夫、ホントに大丈夫だから!」

これ以上ボロを出して挙動不審と思われないように急いでオフィスに戻った。






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