傷痕~想い出に変わるまで~
なんとか必死で気持ちを切り替えて仕事に取り掛かった。

目を通した企画書を閉じて金城くんを手招きする。

「はい、なんでしょう。」

「この企画書だけどね。なかなか面白いと思うんだけど、ちょっと盛り込みすぎかな。」

「そうですか?」

「やりたいことはわかるよ。でもあれもこれも欲張りすぎてひとつひとつの内容が薄くなってる気がする。全面的に推したい部分をいくつか残して、ひとつひとつをもう少し深く突き詰めてみたら?今よりもっと良くなると思う。」

「わかりました。」

企画書を返そうとして、金城くんに教えてもらったエレベーターの止まる時間が間違っていたことを思い出した。

「金城くん、昨日のエレベーターの夜間点検のことだけど、止まる時間は2時間じゃなくて20分の間違いだったよ。」

「あ、そうでしたか?」

そこに私が閉じ込められていたことを知らない金城くんは、どうってことなさそうな顔をしている。

「あれだね。誰かに物事を伝える時は間違えないようにしないと。人との約束にしてもそうだけど、特に仕事に関しては時間を正しく伝えるのは大事だから。」

「そうですね。気を付けます。」

金城くんからエレベーターが止まることを聞いていたのに、実施される時間も確認せず慌てて飛び乗ってしまった私も人のことは言えないんだけど。

そのことを話すと面倒なことになりそうだから、私が閉じ込められていたことは誰にも言わないでおこう。


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