傷痕~想い出に変わるまで~
昔は光の優しいところが大好きだった。

だけど今はそれが光の心の弱さなんだってこともわかってるから、優しくされるほど不安になる。

だから門倉の優しさの裏にある強さに光には感じたことのない感情を抱いてしまうのか、それとも本当に門倉に惹かれているのか。

自分の気持ちがわからないなんておかしな話だ。

どちらを選べば後悔しないのか、そんなことはわからない。

後悔しないように打算的に選ぶなんて私にはできそうもない。

好きとか、嫌いとか。

恋とか、愛とか、情とか。

どこに境目があって何を基準に見定めればいいのか、誰も教えてくれない。

恋の仕方なんか、もう覚えてない。

今の私には何よりも難しい話だ。

人を好きになるって……恋の始まりって、どんな感じだったっけ。



眠りの中で私の頬に柔らかいものが優しく触れたような気がした。


“風邪引くなよ”


夢うつつに聞いた声はとても優しかった。

さっきまで冷えきっていた体は、何やら温かいものに包まれている。

あったかい。

この温もりは何かに似ている。

そう、確かこんな風に温かい腕の中に抱きしめられて…。



「篠宮課長、そろそろ昼休み終わりますよ。」

早川さんに声を掛けられて目が覚めた。

慌てて顔を上げ時計を見ると、昼休みの終わる10分前だった。

「珍しいですね、篠宮課長が会社で寝るなんて。」

「ああ…うん。ちょっと寝不足で。」

伸びをしかけて、体にブランケットが掛けられていることに気付いた。

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