傷痕~想い出に変わるまで~
門倉は短くなったタバコを灰皿に投げ入れて伸びをした。

「しょうがねぇなぁ…。篠宮が終わるまで眠らないように横で見ててやる。」

「えっ、そんなの頼んでないけど!」

「キーボード枕にデスクで社泊なんてイヤだろ。眠りそうになったら起こしてやるから黙って言うこと聞け。」

うう…ないとは言い切れない…。

頬にキーボードの跡をつけて慌てふためく自分の寝起き顔を想像してしまう。

「俺のせいなんだろ?責任取ってやるよ。」

「……門倉のくせにムカつく。膝枕は要らないからね。」

「腕枕の方がいいのか?大胆だな。」

「要らんわ!」

また門倉にからかわれる前にさっさと報告書仕上げて帰ろう。

タバコを灰皿に捨ててコーヒーを急いで飲んだ。

「またやけどすんなよ。」

「またって…。」

やけどしたとは言っていないのに、私が今朝やけどしたことを知ってるのか?!

食べ物の好みだけでなく口の中まで知り尽くされているようで無性に恥ずかしい。

「篠宮、顔赤い。」

「うるさい。」

「今度は何想像してたんだ?」

「コーヒーが少し熱かっただけ!」

からになったカップを握り潰してゴミ箱に投げ入れた。

ホントにもう…調子狂う…。

「仕事終わったなら早く帰れば?私はもう大丈夫だし。」

「そういうこと言うか?終わったら久々に晩飯おごってやろうと思ったのに。」

「そんなのいいのに…。」

確かに門倉とはしばらく一緒に食事とか飲みに行ったりしていない。

だけど以前とは状況が違いすぎるから、少し戸惑う。







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