傷痕~想い出に変わるまで~
口の中のトマトをようやく飲み込んだ。

「心の傷って…。」

「俺がやめとけって言ったら、篠宮はあいつをかばっただろ。」

「まぁ…そうだね。」

「思い出したんだよ。嫁を怪我させたこととか、“この人は悪くない”だの、“寂しいからそばにいてって私が言ったの”って必死でかばったこととかさ…。」

「うん…。」

「嫁のために頑張って働いてたはずなのに、そのせいで寂しい思いさせて挙げ句の果てに浮気されて、“寂しくて耐えられないから離婚してくれ”だろ?篠宮だって俺と同じ理由で旦那に浮気されて離婚してくれって言われたんだろ?」

私がうなずくと門倉は自嘲気味に苦笑いを浮かべた。

「それなのに篠宮はまたあいつとより戻そうとしてるし、俺がやめとけって言ったらあいつをかばうんだもんな。おまえを好きな俺の気持ちはどうでもいいのか?って思ったら、なんかもう何もかもバカらしくなって。篠宮も嫁と一緒なんだなって思った。」

そんなこと考えてたんだ。

傷付けるつもりも心の傷をえぐるつもりもなかったけれど、私の言葉は門倉にとってはイヤな記憶を呼び起こすのにじゅうぶんなショックを与えてしまったらしい。

私がよほど深刻な顔をしていたのか、門倉は笑いながら私の額を指でピシッと弾いた。

「痛ぁ…。」

それほど痛くはなかったけれど、びっくりして左手で額をさすると門倉はおかしそうに笑った。

「おい、箸が止まってんぞ。冷めないうちにさっさと食えよ。早く帰って寝るんだろ。」

「ああ…うん。」





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