傷痕~想い出に変わるまで~
とりあえず手を離してもらって、いつものように並んで駅までの道のりを歩いた。

「門倉ってさ…けっこうヒドイよね。」

「そうか?俺は好きな女にはとことん優しくする主義なんだけどな。」

「ふーん…。じゃあ私のことはそんなに好きじゃないね。」

自分で言っておいて、なんだかこっぱずかしい。

門倉は一瞬キョトンとした顔をした後、おかしそうに笑った。

「ホントにおまえは何もわかってねぇなぁ…。」

大きな手が私の頭をワシャワシャと撫でた。

門倉が優しいのは知ってる。

だけど異性として優しくされるのには慣れてないから、急にそうされると否応なく胸が痛いほど高鳴って、やっぱりどうしても落ち着かない。

それなのに一緒にいるのはイヤじゃなくて、どこか安心感があって、あろうことかもう少し一緒にいたいような気さえしてくる。

お酒も飲んでいないのにおかしいな。

あまりの眠さのせいで思考回路がおかしくなってしまったのかも知れない。


電車の中で、門倉は私の隣に立って窓の外を眺めていた。

その目は窓の外の景色なんかよりもずっと遠くを見ているように感じた。

「篠宮、ホントに座らなくて大丈夫か?」

私はよほど眠そうな顔をしているんだろう。

心なしか眠さのせいで頭がボーッとしている。

「アジフライにはウスターソースよりとんかつソースだと思うんだよね。」

「は?」

「この前、社食の味噌汁にピーマンが入ってた。出汁はトマトでじゅうぶんなのに…。」

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