傷痕~想い出に変わるまで~
「おい、そろそろ起きろよ。」

誰かが私の肩を揺すっている。

「…ん…光…。」

重いまぶたをゆっくり開き明かりの眩しさに目を細めた。

ぼやけた視界には悲しそうな目で私を見つめる門倉の顔が映った。

「あ…門倉…。」

「…もう着くから起きろ。」

「うん…。」

よく覚えていないけれど、夢を見ていた気がする。

なんとなく懐かしくて、優しくて温かいのに悲しい夢だ。

電車を降りてホームを歩きながら、一体どんな夢を見ていたのか思い出そうとした。

誰かが隣にいたのは覚えているけれど、それ以外は思い出せない。

門倉はさっきから黙り込んでいる。

なんか急に機嫌が悪くなったような…?

改札口の前で門倉のスーツの袖を引っ張った。

「…なんだ?」

「もうここで大丈夫。駅から徒歩5分だから。」

「家まで送るって言っただろ。」

門倉はぶっきらぼうにそう言ってさっさと自動改札機を通り抜けた。

仕方なく私もそれに続く。

「どっちだ?」

「あっち。」

駅を出てからの自宅までのわずかな道のりも、門倉は眉間にシワを寄せて黙って歩き続けた。

さっきまであんなに優しかったのに、急に機嫌の悪くなった門倉に困惑した。

重苦しい沈黙に耐えかねて、ほんの少し先を行く門倉の背中に問いかける。

「門倉…なんか怒ってる…?」

「……別に。」

返ってくる言葉はぶっきらぼうで冷たい。

どうしていいのかわからず黙り込んだままマンションの前にたどり着いた。

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