傷痕~想い出に変わるまで~
いつもの居酒屋に入って生ビールと適当な料理を注文した。

私がタバコに火をつけると、門倉は灰皿をテーブルの真ん中に置いてスーツの内ポケットからタバコとライターを取り出した。

そのオイルライターはかなり年季が入っている。

別れた奥さんから初めてプレゼントされたものらしい。

別れても大切に使っているということは相当気に入っているのか、それとも今もまだ彼女を想っているのか。

私の結婚指輪と同じかな。

そういえば門倉は結婚指輪をどうしただろう?

前に聞いた時には“まだ持ってる”と言っていたけれど、あれからもうずいぶん経つ。

門倉はオイルライターでタバコに火をつけ、店員からビールを受け取った。

「とりあえず飲むか。」

「そうだね。」

私と門倉はいつも二人で飲む時に乾杯はしない。

これは私たちにとって“禊(ミソギ)”だからだ。

酒でひたすら過去の罪と過ちを洗い流す。

「門倉、結婚指輪まだ持ってる?」

「なんだ、急にどうした?」

「んー…昨日、二課のみんなで飲みに行ったんだけどね。早川さん来年結婚するんだって。」

早川さんは結婚後も仕事を続けるつもりだけれど、婚約者は出来れば家庭に入って欲しいと思っていることを話した。

「後になってもめる原因になりかねないから、お互いに納得するまで話し合った方がいいって言った。」

「俺もその方がいいと思うぞ。」


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