傷痕~想い出に変わるまで~
「送ってくれてありがとう。うち、このマンションだから。」

「……家まで。」

「えぇっ…。あとはエレベーターに乗るだけだからホントにもう大丈夫だよ?」

「いいから家まで送らせろ。」

もうかなり眠気も覚めたし、さすがにエレベーターの中では寝ないのに、門倉は家まで送らせろと言って譲らない。

家に入るのを見届けないとそんなに心配?

仕方なくオートロックを解除して一緒にエレベーターに乗った。

このマンションに越してきてからの5年間、私の部屋を訪れた男性は父、兄、義弟。

見事に身内の3人だけ。

門倉とここを歩いているのは妙な気分だ 。

玄関の前にたどり着きバッグから鍵を取り出した。

「ここだから、これでもう今度こそ大丈夫だよね?」

私が尋ねると、門倉は苛立たしげに私の手から鍵を奪ってドアを開け、私を玄関に引っ張り込んだ。

「ちょっ…何?!」

壁際に追い詰められ長い腕の間に閉じ込められた。

突然のことにびっくりして頭が回らない。

「おまえ、俺の名前覚えてる?」

なんで突然?

門倉の名前はなんだっけ?

「えーっと…凌平…?」

「わかってんならあいつの名前なんか呼ぶんじゃねぇよ…。今おまえの隣にいるのは俺だろ?」

「えっ?!」

門倉が私の体を強く抱き寄せた。

「なんでおまえはいつもあいつのことばっかり…。呼ぶなら俺の名前呼べよ…。」

「ねぇ…なんのこと?私、さっぱりわからないんだけど…。」

「俺の隣であいつの夢見て寝言で名前呼ぶほどあいつが好きか?」

「えっ?!」

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