傷痕~想い出に変わるまで~
不安なのは私だけじゃない。

光も不安なんだ。

不安を拭い去るにはお互いを信じるしかない。

まっすぐに目を見てうなずくと、光は私の唇にそっとキスをした。

短く触れるだけのキスを何度もくりかえした後、光は私を強く抱きしめた。

「もう一度…俺だけの瑞希になってくれる?」

「…うん。」




真夜中に光の腕の中で目が覚めた。

光は裸の胸に私を抱き寄せたままで寝息をたてている。

ずっと忘れていた光の肌の温もりとか私の素肌に触れる手の感触が、私の中で眠っていた女の部分を呼び覚ました。

何年ぶりかで光に抱かれながら、光以外のことを考えないように必死で光の背中にしがみついた。

はだけて少し寒そうな光の肩に布団をかけ直した。

心と体に残る違和感も、大事なものを見失ってしまったような喪失感も、今はまだ否めなくても時間と共に消えてなくなるはず。

ほんの少しの罪悪感と胸の痛みを気のせいにしてしまおうと閉じたまぶたの裏側に、門倉の顔が浮かんだ。

私は確かに門倉に惹かれ始めていたんだと思う。

口が悪くて少し強引だけど優しくて、私のことを一番わかってくれた。

急に好きだと言われて戸惑ったけれど、抱きしめられても手を握られてもイヤじゃなかったし、門倉のキスはとても優しかった。

だけど私は私の意思で、もう一度光と一緒にいることを選んだ。

後戻りはできない。


“ホントにおまえはなんにもわかってねぇなぁ…”


少し呆れたような門倉の声が聞こえた気がした。






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