傷痕~想い出に変わるまで~
翌日の早朝、光は少し眠そうに自分の家へ帰った。

今度は俺の家においでね、と言い残して。

そのうちまた当たり前のようにお互いの部屋を行き来したり、休みの前の日には泊まったりもするんだろう。

先のことはまだわからないけど、いずれお互いの気持ちが固まれば復縁なんてこともあるかも知れない。

“ずっと一緒にいよう”という約束を今度こそは守れるといいなと思う。

光と別れてからそのことがずっと心に引っ掛かっていた。

守れなかった約束はいつまでも心の奥にしがみついて、私を許してはくれなかった。

私たちはまた約束をした。

お互いを大事に想う気持ちを忘れなければ、笑ってずっと一緒にいられるだろう。

……きっと。



その日は会社で門倉とは会わなかった。

門倉は今日から今週いっぱい、出張で四国に行っているそうだ。

しばらく顔を合わせなくて済むと思うとホッとした。

光と付き合うことにしたと面と向かって言える自信が今はまだないし、メールや電話をしてもすぐに顔を合わせるのは気まずい。

でもいずれは言わなくちゃいけないんだから、しばらく会わずに済む今のうちに電話かメールで伝えた方がいいのかも。

……ずるいな、私は。

光を選んだくせに門倉にも嫌われたくないなんて勝手すぎる。

どうせなら思いっきり嫌ってくれた方が気が楽なのかも知れない。

すぐ近くにいても関わらないでいてくれたら、迷うことも光を不安にさせたり悲しませたりすることもないんだから。

…なんて、自分の身勝手さに辟易する。

門倉が言っていた通り、私も別れた奥さんと同じってことだ。




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