傷痕~想い出に変わるまで~
昼休みが終わる少し前。

私は意を決して門倉に電話することにした。

電話の内容を他の人には聞かれたくないから、その場所に中庭のベンチを選んだ。

スマホの画面に門倉の電話番号を表示すると手が震えた。

もう二度と私に笑って話し掛けてくれないかも知れない。

だけどいつまでも光とのことを秘密にはしておけない。

大きく深呼吸をして通話ボタンを押した。

呼び出し音を聞きながら、門倉が電話に出なければいいのにと思ってしまう。

今からこんなことでどうする。

しっかりしろ。

心の中で自分を叱咤して奮い起たせた。

何度も呼び出し音が続いた。

忙しくて出られないのかな。

ほんの少しホッとしながら、また後で掛けようと電話を切りかけた時、呼び出し音が途切れた。

「もしもし。」

あ…繋がった…。

急激に動悸が激しくなる。

「どうした、篠宮?」

「うん…今、ちょっとだけいいかな。」

ドキドキしながらできるだけいつも通りを装う。

「ああ、大丈夫だ。で、なんだ?」

「うん…あのね…今こんなことを電話で言うのもなんなんだけど。」

「ん?なんだよ、改まって。気持ち悪いな。」

門倉が笑いながら尋ねた。

「私…光と付き合うことにしたから。」

緊張でカラカラに渇いた喉から絞り出した声は少しかれていた。

「え…?」

「昨日、ちゃんと返事したの。だから門倉には知らせておこうと思って。」

門倉が電話の向こうで黙り込んだ。

ほんの少しの沈黙が流れる。

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