傷痕~想い出に変わるまで~
「瑞希…泣いてるの?」

「お願いだから今だけほっといて。」

「ほっとけないよ。言いたいことがあるなら言って。」

「何も言いたくない。」

私は光としかしたことないから、あの頃の光しか知らない。

ただ好きだという気持ちを伝え合うためだけに抱き合っていたあの頃とは違う。

どうすれば男の人が喜ぶとか、その辺の知識には疎い。

女としてのなけなしの自信が一気に失われていく。

光はどうしていいのかわからず私を抱きしめながらオロオロしている。

「ごめん、瑞希…機嫌直してよ。」

私の機嫌を損ねた理由もわからないのになぜ光は謝るのか。

女慣れしているなら私の気持ちも察してよ。

この間は何も考えないようにしていたから気付かなかったけれど、この先私は光と抱き合うたびにこんな気持ちになるんだろうか?

それとも回数を重ねれば気にならなくなるの?

別れてからのことはお互いに責めることはできないとわかっているけれど、やっぱり光のそういう面を見るのは複雑な気持ちだ。

スタートは私と同じだったはずなのに、光は私と夫婦だった時も私の知らないうちに一人でどんどん大人の経験を重ねて。

本当は私とするより他の人とした方がいいと思ってるんじゃないかとか、私で満足できなければまた他の人ともするんじゃないかとか。

疑い出したらきりがないのに、不愉快な妄想ばかりが広がってまた胸が軋むようなイヤな音をたてる。

「瑞希…せめてこっち向いてよ。一人で泣かないで。」

< 179 / 244 >

この作品をシェア

pagetop