傷痕~想い出に変わるまで~
みっともない泣き顔なんかみられたくない。

気持ちが落ち着くまでほっといて。

「俺のことイヤになった?」

光がイヤとか、そういうんじゃない。

だけどこの気持ちをなんと言って説明したらいいのか。

こんな気持ち、きっと光にはわからないだろう。

光は顔を覆っている私の手をどけようとした。

何に対してかわからないけど、無性に苛立つ。

「ほっといてって言ってるでしょ!」

「瑞希…。」

なんかもう光がなんと思おうがどうでもいい。

こうなったらぶちまけてやる。

「どうせ私は恋愛もしないで仕事ばっかりしてきたから光が付き合ってきた人たちと違って全然慣れてないよ!光しか知らないんだから!」

「えっ…。」

「いい歳してどうすれば男の人が喜ぶとか全然知らないの、私は!年相応の経験がないから!」

一体何を言ってるんだと自分でも思う。

それは光の責任じゃないのに。

浮気した光へのちょっとした八つ当たりだ。

それくらいは許されるだろうか。

「瑞希…それホント?」

何に対しての“それホント?”なんだかわからないけど、私は嘘はひとつも言ってない。

強いて言えば光以外の人と…門倉とキスはした。

だけどあれも門倉がしてきたことだから、恋人同士がするようなキスなんか光としかしたことはない。

「俺と別れてから…誰とも付き合わなかったの?」

「あいにく私は光みたいにモテないの。言ったじゃない、仕事しかしてないって。光と付き合う前も別れた後も他の人と付き合ったことなんかないよ!」

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