傷痕~想い出に変わるまで~
なんでこんなに怒ってるのかよくわからなくなってきた。

私がモテないのも光以外の誰とも付き合ったことがないのも、光には関係のないことだ。

私はモテないって開き直ってどうする。

散々八つ当たりをされているのに、光は嬉しそうに笑っている。

「ごめん、瑞希には悪いけど俺はちょっと…いや、かなり嬉しいかも…。」

はぁ?なにがそんなに嬉しいって?

マグロが好きなのか、光は?!

「男ってバカだね。自分の好きな子が他の人としたことないって思うと嬉しいんだから。瑞希が俺としか付き合ったことないとか知らなかったし。」

…それホントにバカなんじゃないの?

三十路過ぎのバツイチ女のセカンドバージンなんて、どこに値打ちがあるって言うのよ。

それより大事な初めてのものを光には全部あげたはずだけど?

「……わけわかんない。」

「わかんないかな。でも瑞希が他の男のものになったことがないってわかって嬉しいんだ。」

光は背を向けていた私の体をクルリと自分の方に向けて両手で頭を引き寄せ額をくっつけた。

「他の子と瑞希を比べたりしてないよ。今は瑞希のことしか考えられないくらい、俺の頭の中は瑞希でいっぱいなんだ。」

「今は…って、今だけ?」

「ずっと瑞希でいっぱいにさせてよ、俺の心も体も全部。瑞希以外は見えなくなるくらい。」

そっと重ねられた唇は優しくて、あの頃何度も交わしたキスを思い出させた。

変わらない部分もあるんだとほんの少しホッとする。

光の唇が私の唇に優しく触れるだけの短いキスで、懐かしいような切ないような気持ちになった。

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