傷痕~想い出に変わるまで~
翌日土曜日。

部下たちもほぼ全員が休日出勤している。

午前中のまだ時間の早いうちにオフィスの引っ越しが済んだ。

お昼になる少し前、細かいものの配置などがだいたい片付いた頃に部長からジュースの差し入れが届き、みんなでひと息つくことにした。

「もう昼かぁ、腹減ったなぁ。」

「今日は社食休みですね。土曜の昼御飯っていつもどうしてます?」

「男はだいたいそこの定食屋か牛丼屋だよな。女子は?」

「いろいろ。パスタ屋とかカフェとか、ファミレスにも行く。」

みんなはジュースを飲みながら昼食の相談をしている。

それを聞き流しながら室内を見回していると、何ヶ所かパーテーションの隙間が広い部分があることに気付いた。

でもまぁ、これくらいなら特に仕事に差し支えないからいいか。

自分のデスクに座りなんとなく横を向くと、少し広い隙間から一課のオフィスが見えた。

あ…真横だ…。

隙間から見えたのはデスクでパソコンに向かう門倉。

一瞬、門倉と目があった気がする。

いや、パソコンの画面見てるなら目が合うわけないか。

気のせいかな。

「それじゃあお昼までもう少しあるから、自分の荷物の片付け済んでない人は済ませちゃって。済んだ人はこっち手伝ってくれる?」

「わかりました。」

手の空いている部下たちに手伝ってもらって、消耗品を棚に並べたり必要な掲示物を壁に貼ったりした。

「篠宮課長。」

隣で手伝ってくれていた早川さんが作業を進めながら話し掛けてきた。

「なに?」

「私、彼と別れることにしました。」



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