傷痕~想い出に変わるまで~
どうやら私は自力で額に冷却シートを貼り、バッグの中に入っていたミネラルウォーターで解熱剤を飲んだようだ。

光が看病してくれたわけではなかったことに落胆した。

部屋の中を見渡しても光の姿はどこにもなく、名前を呼んでも返事はなかった。

高熱で倒れた私をほったらかしにして、別の女とどこかへ行ってしまったんだと思うと悔しくて情けなくて涙がこぼれた。

そして私たちの夫婦関係がもう完全に終わっていることをハッキリと悟った。

もう5年も前のことだ。



私の話に触発されて門倉も“決定的瞬間”を思い出したのか、苦虫を噛み潰したような顔をしてビールを飲んでいる。

予定より早く仕事が終わり出張先から直接自宅に戻ると、妻と見知らぬ男がリビングのソファーで抱き合って情事に及んでいる場面に出くわし、門倉は妻から男を引き剥がして殴りかかったそうだ。

「門倉は現場に鉢合わせて修羅場になったんでしょ?」

「ああ…でもあいつが男を庇ったんだ。男を思いきり殴るつもりが自分の嫁の顔を殴って怪我させた。口元が切れて血が出て頬が腫れて最悪だったな。」

光にしろ門倉の元嫁にしろ、どうして自宅に浮気相手を招いて事に及ぶのか。

その辺の神経がわからない。

どうせなら別の場所でバレないようにやればいいものを。

私も門倉もいつも仕事で帰りが遅いのが当たり前だったから油断していたのか、きっとそれ以前から浮気相手を家に連れ込んでいたんだろう。


< 19 / 244 >

この作品をシェア

pagetop