傷痕~想い出に変わるまで~
タクシーに乗り自分の家の場所を運転手に告げると、門倉は私の肩にもたれて目を閉じた。

もしかしたら朝からずっと調子が悪かったのかな。

今日は休むわけにはいかないと思って出社したのかも知れない。

体調が悪いのに部下の前ではそれを見せず遅くまで仕事して、本当はものすごくつらかったはずだ。

「お客さん、もうそろそろですよ。大丈夫ですか?」

「あ、はい。なんとか。」

とりあえず家の中まで送り届けないと。

門倉が住んでいると言うマンションの前でタクシーが停車した。

料金を支払い運転手さんの手を借りて、なんとか門倉を担ぐようにしてタクシーを降りた。

「門倉、何階の何号室?」

「もうここで大丈夫だって…。」

「家まで送らせろ。」

前に門倉に送ってもらった時に言われたことを言ってやると、門倉はつらそうに荒い息をしながら微かに苦笑いを浮かべた。

「5階…504…。」

「5階の504号室ね、わかった。もう少しだから頑張ってよ。」

「おー…。」

ここまで来ると観念したのか、門倉は大人しく私に送られる気になったようだ。

門倉から預かった鍵でエントランスのオートロックを解除して、エレベーターに乗り込むと門倉が小さく笑った。

「エレベーター…乗るたびに…あの時のこと、思い出すわ…。」

「ん?ああ…。門倉、あの時私が緊急呼び出しじゃないボタン押してたの、気付いてたんでしょ。」

「…さぁな。」

気付いてたんだな。

気付いてたのに教えてくれないなんて、本当に意地悪だ。



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