傷痕~想い出に変わるまで~
重い買い物袋を提げて部屋に戻ると、門倉はスーツ姿のままベッドに横たわっていた。

そっと近付くと苦しそうな寝息が聞こえた。

汗もかくだろうし、せめて楽な服装に着替えさせてあげたいんだけど。

勝手にタンスの中を漁り、部屋着らしきものとタオルを見つけ出した。

汗をかいた時にすぐ着替えられるように、シャツとか下着とかもベッドのそばに用意しといた方がいいのかな?

別の引き出しをいくつか開けてみる。

気分は宝探しに来た盗賊だ。

一番上の浅い引き出しの中を覗いた。

「あ…これ…。」

1枚の写真が目に留まり手に取って眺めてみる。

新入社員の頃に同じ課の同僚と一緒に撮った写真だ。

髪の長い私の隣には門倉がいて、私の左手の薬指にはまだ真新しい結婚指輪が光っていた。

みんな楽しそうに笑っている。

若いな…門倉も、私も。

10年も前のこんな古い写真、大事に取ってあるなんて。

見かけによらず意外と几帳面なのか物持ちがいいのか。

それともこの写真によほどの思い入れでもあるのかな?

写真を引き出しの中に戻し、また別の引き出しの中を物色して着替えを見つけ出した。

よし、こんなもんだろう。

ベッドの上の門倉にそっと近付いた。

寝てるみたいだ。

額に浮き出た汗をタオルで優しく拭いて、冷却シートを貼り付けた。

「…冷たっ…!」

どうやらびっくりさせてしまったらしい。

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