傷痕~想い出に変わるまで~
冷蔵庫からゼリーを取り出して来て、スプーンですくって門倉の口の前に突き出した。

「私なんかとはもう関わりたくないとか思ってるかも知れないけどさ…こんな時くらいは頼ってくれてもいいでしょ…?おまえなんか要らないって言われてるみたいで寂しいじゃない…。」

「要らないって言ったのは…おまえだろ…。」

門倉が目をそらして寂しそうに呟いた。

胸がギュッと鷲掴みされるように激しく痛んだ。

「要らないなんて言ってない…。」

私の手からゼリーの容器とスプーンを取り、門倉は自分でゼリーを口に運んだ。

「何かあれば…おまえが来てくれるとか…思いたくねぇんだよ…。」

「え…?」

門倉はゼリーをベッドサイドに置いて私の腕を掴み、いつもより頼りない力で私を引き寄せ抱きしめた。

熱に浮かされた門倉からは速い鼓動と熱い体温が伝わってくる。

「そういうの…残酷なんだよ…。これ以上…期待させるようなことすんな…。おまえは俺より…あいつを選んだんだろ…。」

「門倉…。」

門倉の手が私の体からゆっくりと離れた。

「もう行け…。」

「でも…。」

「抑えきかなくなるから…俺が熱で何もできないうちに…行けっつってんの…。」

門倉はまた容器を手にとってスプーンでゼリーを口に運んだ。

本当はつらいはずなのになんで門倉はこんな時まで強くて優しいんだろう。


不意にあの日のことを思い出した。

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