傷痕~想い出に変わるまで~
光が別の女とそこで抱き合っていたことも知らず、浴室でシャワーを浴びてそのベッドで毎日眠っていたのかと思うと吐き気がした。

もしかしたらソファーでも…と思うと寒気がして、離婚してあの部屋を引き払うまでは仕事用に使っていた狭い部屋の床に転がって眠った。


「私たちは浮気もしてないし必死で働いてただけなのに…なんか惨めだよね。」

「そうだな…。マイホームが欲しいってあいつが言うから俺は必死で仕事してたのに、私と仕事どっちが大事なの?って。あいつが大事だから夢を叶えてやりたかっただけなのにさ。俺が仕事してる間に男連れ込んで、しまいには寂しくて耐えられないって出て行くんだもんな。」

「私なんて高熱で倒れてるのに放置されたんだよ。普通、そんな状態の妻を放置して女とどっか行く?」

「いや、それは人として有り得ねぇだろう。」

門倉は呆れ顔でタバコに火をつけた。

私も同じようにタバコを口にくわえると、門倉がライターを近付けて火をつけてくれた。

「篠宮、昔はタバコ吸わなかったよな?」

「そうだね。離婚してから吸うようになった。」

灰を灰皿の上に落としながら門倉はネクタイを少しゆるめた。

「離婚ストレスのせいか?」

「それもあるかもだけど、光がタバコ吸う女は嫌いだったから。髪の長い女が好きだったから短くしたし。仕事し過ぎて嫌われたんだから、どうせなら光の好みと真逆になろうと思って。」

「あー…確かに昔は髪長かったな。」


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