傷痕~想い出に変わるまで~
「適当に嘘でもつけばどうだ?」

「うーん…。」

嘘をつくのもどうかと思うけど、本当のことを言うのもどうかと思うし…。

「俺が電話して謝ってやろうか?」

門倉が出てきたら余計にややこしくなるって!

「そんな…っていうか門倉、熱は下がったの?計ってみて。」

「そんなこと言ってる場合かよ…。」

「いいから!」

体温計を差し出すと門倉は眉をひそめながらそれを受け取り脇にはさんだ。

しばらくして測定終了のアラームが鳴った。

「何度?」

「8度5分。」

夕べよりはかなり下がったけど、まだまだ熱は高い。

「まだかなり高いね。また夕べみたいに上がらなければいいんだけど。」

「俺のことより自分の心配しろよ。」

「そうなんだけど…。」

腕組みをして首をかしげながら考えていると、門倉が私の腕を掴んで引っ張った。

門倉は病人のくせに強い力で私をベッドに引き上げる。

「わっ…ちょっと!」

「それともホントにあいつに言えないような秘密でも作るか?」

あいつに言えないような秘密って…。

この状況でそれは冗談にならないよ!

「何言ってんの、病人のくせに!」

「今ならそれくらいはできるぞ。」

更に引き寄せられ顔をぐっと近付けられる。

急激に鼓動が速くなって息苦しさをおぼえた。

少しけだるそうな門倉の表情がいつになく色っぽい。

ああもう!

ホントに無駄に顔がいいんだから、あんまり近付けないで!!
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