傷痕~想い出に変わるまで~
私は夕べの出来事を正直に光に話した。

「昨日、9時半頃になんとか仕事終わらせて会社を出ようとしたんだけど、急に門倉が倒れて…。」

門倉の名前が出てきた時点で、光の表情が険しくなった。

それでも途中で辞めるわけにはいかず話を続けた。

「他に誰もいなかったからタクシーで家まで送って、薬とか必要なものが何もなかったから近所の店で買ってきて看病したの。40度以上も熱があって心配だったから門倉が薬飲んで眠るのを見届けたら帰るつもりだったんだけど…ずっと寝不足だったから私までうっかり眠っちゃって、目が覚めたら朝だった。」

私から目をそらしたまましかめっ面でその話を聞いていた光が、ゆっくりと私の方をみた。

今まで一度も見たことのないほどの視線の鋭さに息を飲んだ。

「ふーん…一晩中あの人と二人っきりだったんだ。俺のことは忘れちゃうくらいあの人に夢中だったの?」

「そんないい方しないでよ…ホントに看病してただけなのに…。40度以上も熱がある人をほっとけないでしょ?」

「電話しても繋がらなかったけど?そんなに俺に邪魔されたくなかった?」

「違うよ、前の日に充電し忘れてたからバッテリーが切れちゃってたみたいで…。」

「そんな見え見えの嘘つくなよ…。」

正直に話したのに光は信じてくれない。

光との約束を無視して門倉と浮気したと頭から決めつけて私を責める。

ひどい。

私は浮気なんかしたことない。

浮気したのは光の方だ。

それなのに光は自分のことを棚に上げて私の浮気を疑っている。

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