傷痕~想い出に変わるまで~
今度こそこれでもう終わりにしようと告げようとした時。

光は涙をこぼしながら私を強く抱きしめた。

「俺は瑞希が好きだ…。どうしようもないくらい好きなんだ…。お願いだからもう俺から離れて行かないでよ…。瑞希がいないと俺は…生きていけない…。」

その言葉を聞いて、私と別れた後で光が自ら命を絶とうとしたことがあるのを思い出し、全身の血の気が引いた。

私がもしここで別れようと言ったら、光はまた同じことをくりかえすんじゃないか。

そう思うととてつもない恐怖で胸がしめつけられた。

「瑞希、愛してる。もう二度と浮気なんかしない。瑞希だけを愛して大事にするから…どこにも行かないで、ずっと俺のそばにいてよ…。」

離婚する時には言えなかった言葉なのかも知れない。

光は震える腕ですがり付くように私の体を抱きしめながら泣いていた。

私はもうそれ以上何も言えなくなって光の背中を優しくさすった。

「光…泣かないでよ…。」

「瑞希が好きなんだ…。俺がこんなこと言える立場じゃないのはわかってるのに、バカみたいに嫉妬して瑞希を疑って…瑞希があの人と一晩中一緒にいたって思うだけで苦しくてどうしようもないんだよ…。」

「信じてよ…私は嘘は言ってないし、門倉とはそんなこと一度もない。」

ほんの少し胸が痛んだ。

確かに一線を越えたことはないけれど…門倉に抱きしめられてドキドキしたり、優しいキスに胸が熱くなったりした。

だけどそれは光には言えない。

私は嘘はひとつも言っていないけれど、光に言えないことがあるのは事実だ。

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