傷痕~想い出に変わるまで~
ずっと私の肩口に顔をうずめていた光が体を起こして目元を拭った。

「だったら確かめさせてよ。瑞希が俺だけの瑞希だって。」

「…信じてないの?」

「確かめられたら困るの?体にあの人の跡が残ってるから。やましいことがないなら俺に何されても平気だよね?」

私と門倉の間に何もなかったことを私の体で実際に確かめないと安心できないのかも知れない。

本当のことを言っても信じてもらえないなんて悲しい。

これ以上何を言っても同じなんだろう。

もう好きにすればいい。

好きなだけ確めて私を疑ったことを認めればいいじゃないか。

「…わかった。」

静かにうなずくと、光は私の手を引いてベッドへ導いた。

昨日お風呂に入れなかったのにシャワーも浴びさせてもらえないまま抱かれるなんて、辱しめを受けている気分だ。

こんな風に抱かれたってちっとも気持ちよくなんかない。

とにかくみじめで情けなくて、つらい。

早く終わればいいのに。

なされるがままで苦痛に耐えながら光が果てるのを待った。

ようやく解放されると思ったのに。

光はそれだけでは確め足りないのか、執拗に私の体を求め続けている。

私がどう思って何を感じているのか、光はそんなことにも気付かない。

目を閉じると愛情と言う名の鎖でがんじがらめにされている裸の私の姿が浮かんだ。

もう涙も出ない。

心が渇いてどんなに愛されても潤わない体を人形のように投げ出して、心の傷がひとつ、またひとつと増えていくのを感じた。


まっすぐに愛し合えたあの頃に戻れたらいいのに。




< 210 / 244 >

この作品をシェア

pagetop