傷痕~想い出に変わるまで~
時々門倉の視線を感じることがあるけれど、あれから私は用がある時以外はできるだけ門倉の方を見ないようにしている。

少しでも仕事に関係ない会話をすると光とのことを聞かれそうでイヤだから。

門倉に心配かけたくないし、私たちのことに巻き込みたくない。

光が毎日私のところに来るのは、私と門倉を会わせたくないからなんだろう。

家の前だけでなく時々会社の前で待っていることもある。

会うのを断るとまた光が不安と嫉妬に駆り立てられそうで怖い。

疑われてあんなに乱暴にされるのもつらいけれど、もしも万が一やけを起こしたらと思うと、できるだけ光を刺激しないようにしなくてはと思う。

まるで腫れ物に触るみたいな感じ。

光が私を愛してくれているのは息苦しいほどに実感しているけれど、このままでは私の身がもたない。

寝不足のせいで精神的にもかなり不安定だ。

仕事に支障をきたさないように気を付けてはいるけれど、時々目を開けたまま意識が飛びそうになることもある。

お願いだから私をゆっくり眠らせて。

ちゃんと仕事をさせて。

そうすればあとは何をしても構わないから。



今日もまた一睡もできないまま出勤した。

前の日も2時間足らずしか寝ていない。

ぼんやりした頭をなんとか叩き起こそうと、駅の売店でドリンク剤を買って一息に飲んだ。

あまり多用してはいけないとわかっているけれど、こんなものでも飲まないと体がもたないから、一日に数本飲む日もある。

パソコンの画面に羅列された文字が意味をなさないものに見えてきた。

かなりの末期状態だ。

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