傷痕~想い出に変わるまで~
大きな手が私の頭を何度も撫でた。

ああ、まただ。

あたたかくて心地いい。

私をまるごとすっぽりと包んでしまいそうな優しい手。

この手は私の過去も未来もすべてを受け入れて愛してくれるだろうか。



うっすらとまぶたを開けると眩しさで視界が一瞬真っ白になった。

見上げているのは見慣れない白い天井。

あれ…?ここどこ?

さっきまで会社で仕事をしていたはずなのに。

「おっ、目ぇ覚めたか?」

聞き慣れた低くて優しい声がした。

「…門倉…?ここどこ?私なんで…。」

ひどく掠れた声が口からもれた。

どうやら私の声らしい。

「仕事中に倒れたんだ。覚えてないのか?」

「うん、全然…。」

「まぁ無理もないな。医者の話では過労と過度の睡眠不足と栄養失調だと。おまえ、丸二日眠ってたんだぞ。」

丸二日?!

…ってことは…。

「えっ?!今日何曜日?」

「金曜日。おまえが倒れたのは水曜日だ。」

どうしよう…。

3日もなんの連絡もしないでまた光を不安にさせているかも。

「…帰る。」

「は?何言ってんだ。」

起き上がると私の左手は点滴に繋がれていた。

「帰らなきゃ…。」

点滴の針を抜こうとすると、門倉が慌ててそれを止めた。

「待て篠宮、ちょっと落ち着け!!」

「帰らなきゃいけないの!私がいないと光は…!!」

泣いて暴れる私をなだめようと門倉が抱きしめた。

「とにかく落ち着け。どうしても帰らきゃいけない理由を聞かせろ。」

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