傷痕~想い出に変わるまで~
門倉はナースコールを押して看護師を呼んだ。

医師と看護師が私の意識が戻ったことを確認して、血圧や脈拍、体温など、体に異常がないか調べた。

今すぐ帰りたいと言うと、念のため今夜はもう一晩入院しておきなさいと医師に言われた。

精神安定剤を出しておくから食後に服用するようにと告げると、医師と看護師は病室から出ていった。

光が待ってるのに今夜も帰れない。

力なくベッドに体を投げ出して両手で顔を覆う。

門倉はベッドのそばにパイプ椅子を置いて腰掛けた。

「あいつのことがそんなに気になるか?」

「だって…私が会社で倒れて今日で3日目なんでしょ?その間なんの連絡もしてないんだよ…?」

私の言葉を門倉は怪訝な顔で首をかしげながら聞いていた。

「3日くらいどうってことないだろ?」

「光は昨日も一昨日もマンションの前で私の帰りを待ってたと思う。今日だって…。」

カーテンの隙間から窓の外に広がる夜の風景が見えた。

門倉がここにいると言うことは、夜も遅い時間に違いない。

「どういうことだ?話してみろ。」

「……門倉にも…誰にも話せないよ…。」

「いいから話せ。おまえのこと一番わかってやれんのは俺だって言っただろ?」

門倉の言葉はどうしてこんなに強くて優しいんだろう?

忘れかけていた何かを思い出させるように、ガチガチに固くなっていた心がほどけていくような気がした。

「光は…私がいないと、生きていけないの…。」


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