傷痕~想い出に変わるまで~
「若い時の結婚がうまくいかなかったのも、あいつが死のうとしたのも篠宮だけのせいじゃない。今のおまえは責任感とか同情であいつの檻の中に閉じ込められて、正しい判断ができなくなってる。」

「違う…。」

「ホントはわかってんだろ?こんな風にずっと続けられるわけがないって。」

「…もう言わないでよ…。」

門倉の言葉は私の心を粉々に打ち砕いた。

今の私が光と一緒にいるのは恋とか愛なんかじゃない。

責任感とか情とか、簡単に捨てられない複雑な想いで光のそばにいる。

昔みたいにまっすぐに好きだと言えないのは、私が光を心から愛していないからだ。

門倉は私の頬を両手で優しく包み込んだ。

「篠宮…今からでも遅くない。あいつと別れて俺のところに来い。目一杯愛して幸せにするから。」

「できないよ…そんなこと…。」

「言っただろ。俺は本気だ。絶対に後悔はさせない。俺が篠宮の全部受け止めてやる。」

門倉の唇が私の唇に触れた。

ついばむような優しいキスを何度も何度もくりかえす。

こんなのダメだと思うのに、私は抗うことも忘れ門倉の優しいキスを受け入れていた。

できるならこのままずっと、門倉の優しさに溺れていたい。

大きな手で抱きしめて私のすべてを包み込んで欲しい。

口は悪いけど誰よりも強くて優しくて。

一緒にいるとあたたかくて心地よくて。

気が付くと当たり前のようにすぐ隣にいて。

いつも何よりも私の気持ちを大事にしてくれる。


私はそんな門倉が好きだ。



きっと、ずっと前から。




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