傷痕~想い出に変わるまで~
別離
私が職場で倒れてから、光はあまり私に会いに来なくなった。

私に無理をさせてしまったことを自覚しているのか、それとも別に理由があるのか。


病院であまりにも光のことを気に掛けている私を気遣って、門倉が光に連絡してくれたそうだ。

私が過労と栄養失調と過度の睡眠不足で倒れたと門倉が話すと、光は言葉を失っていたらしい。

翌日、退院する時間に光が迎えに来てくれた。

光は私を家まで送ると、横になっていろと言って食事の用意をしてくれた。

決して上手とは言えないおじやを私の口に運んで食べさせてくれて、その後は添い寝して、私を抱きしめて何度も頭を撫でてくれた。

私がウトウトし始めた時、光が悲しそうに呟いた。

“俺はどれだけ愛しても瑞希を幸せにしてあげられない”

その時、光が私を抱きしめながら泣いているような気がした。




翌週からいつも通り出社して仕事をした。

しっかり体を休めたので体力的には問題ない。

だけど気持ちはとても複雑で苦しかった。

私は門倉が差し伸べてくれた手を取らなかった。

やっぱり光を突き放すことなんてできなかったから。

門倉の気持ちには応えられないのに、門倉のキスも優しく抱きしめてくれた手も拒まなかった私はずるい。

自分のずるさや浅ましさに嫌気が差した。

門倉にはきっと、私なんかより素敵な人が見つかるだろう。

今更ながら門倉を好きだと気付いたことも、できるなら門倉の優しさに溺れてしまいたいと思ったことも、全部私の胸の奥に閉じ込めた。





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