傷痕~想い出に変わるまで~
入浴を済ませた後、私たちは手を握り合って寄り添って眠った。

お風呂で疲れたのか、光はベッドに入ってすぐに眠ってしまった。

ゆっくり休めば体調もすぐに良くなるはず。

光の寝顔を見ながら、そのうち私も眠りに落ちた。



日曜日は雨だった。

雨音を聞きながら長い時間をベッドの中で他愛ない話をして過ごした。

結婚前によく行ったお好み焼き屋のあのメニューが好きだったとか、新婚の頃に私がよく作った料理の話とか。

昨日から光はやけに懐かしい話をする。

私たちが一番楽しかった頃の話ばかりだ。

なんとなく違和感を感じながらも、私もすっかり懐かしい話に興じていた。

この間まであんなに私の体を求めていたのに、ここ最近の光はキスをしたり抱きしめたりはしても、それ以上のことをしなくなった。

私に気を遣っているのか、それとも光自身の性的な欲求が落ち着いたのか。

それはわからないけれど、昔みたいに笑って話せることはとても嬉しかった。

だけど笑って話せるのは楽しかった頃のことばかり。

結婚生活がうまくいかなくなってからのことや今のことを、光は何ひとつ話そうとしない。

どうせ話すなら楽しい話の方がいいって思っているのかな?

だけどそれはもう昔には戻れないという現実を改めて突き付けられているような気もした。

光は話をしている途中で、時折私から顔をそむける。

どうしたんだろうと思ったけれど、その後すぐ私の方を見て笑うから、そのうちあまり気にならなくなった。

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