傷痕~想い出に変わるまで~
その日、自宅のベランダで一人、カフェオレのおまけに付いていた線香花火に火をつけた。

季節外れの線香花火は静かに火の花を咲かせ、ゆっくりと燃え尽きた。


“俺、この先ずっと何年経っても瑞希と一緒にいたいよ”


あの日の光の声が空の彼方から聞こえた気がした。





光の実家を訪れてからしばらく経った頃。

久しぶりに門倉と居酒屋に行ってお酒を飲みながら、光が亡くなったことを話した。

門倉は驚き言葉をなくした後、神妙な面持ちで“そうか…”と一言だけ呟いた。

私が光と別れて少し経った頃、俺と付き合おうと門倉は言ってくれたけれど、私は光との約束を守るためにそれを断った。

そして今。

門倉は来月一日付けでまた支社に転勤することが決まっている。

「で、おまえはこれからどうすんの?」

「これまで通り頑張るよ。」

枝豆を口に放り込みながら答えると、門倉は小さくため息をついた。

「…俺と一緒に来るか?」

「まだ半年経ってないしね。気持ちだけありがたく。」

「おまえの禊はまだまだ終わりそうもねぇなぁ…。」

「そうだね。光が亡くなってからまたいろいろ後悔したよ。失ってから気付くものが多すぎてイヤになるね。」

幸せだったことやつらかったこと、いろんなことがあったけれど、光と過ごした日々を想い出と呼べるまで、私の禊は続くのかも知れない。

「俺がいなくなったら誰と禊するんだ?」

「さぁ…。一人で、かな。」

「寂しいな、おい。しょうがねぇな…たまには戻ってきて付き合ってやる。」

< 229 / 244 >

この作品をシェア

pagetop